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特別対談 硬式野球部 石井監督×山田コーチ

石井監督 山田コーチ

石井監督(左)
いしい・さとし 1960年7月15日生まれ、奈良県橿原市出身。 奈良県立郡山高校3年時に第50回選抜高等学校野球大会出場、 ベスト8の戦績を残す。 同志社大学へ進学、3年時に全日本大学選抜北海道大会で優勝。 大学卒業後、大阪ガス株式会社(硬式野球部)に入社し、 都市対抗野球大会本選初出場、ベスト4の快挙を成し遂げる。 その後、同志社大学硬式野球部監督、全日本アマチュア野球連盟アシスタントコーチや大学生主体の全日本Bチームコーチを経て現職。 座右の銘は「雑草のごとく」「心の声に従え」(平尾誠二)。

山田コーチ(右)
やまだ・あきちか 1978年9月19日生まれ、京都府京都市出身。 京都府立北嵯峨高校3年時に第78回全国高等学校選手権大会出場。 立命館大学へ進学、4年時に日本代表としてシドニー五輪に出場。 2000年のドラフト会議において逆指名で福岡ダイエーホークス(現福岡ソフトバンクホークス)に入団、野球ファンの大注目を浴びる。 その後、独立リーグ、千葉ロッテマリーンズ、ミキハウスでプレー、37歳で現役引退し現職。 座右の銘は「置かれた場所で咲きなさい」。

大学生活4年間を将来の人生に役立てるために

本学の硬式野球部は2019年度の京滋大学野球春季リーグを5勝4敗、リーグ3位という戦績で終えた。悲願の全国大会初出場を果たせなかった背景には、どんな要因がからみあっていたのか。目指すは神宮出場、そして頂点へ、秋季リーグへの抱負も含め、石井智監督と、山田秋親コーチにそれぞれの指導論を語り合ってもらった。
(聞き手・沼田彪・3年次生)

重要なのは、目標に対して主体的に行動すること ― まず初めに春季リーグお疲れさまでした。佛教大、京都先端科学大に次ぐリーグ3位という結果をどう受け止めていらっしゃいますか。
石井 智(以下石井) 山田コーチに投手陣をうまく整備してもらいましたし、野手も昨シーズン活躍した選手が残っていたので、優勝争いをできると思っていました。
リーグ優勝を果たして神宮に行くつもりで準備していたので、上位2チームに勝ち点を落としたのは非常に不本意です。
ただ香水晴貴という2年次生のピッチャーの成長は収穫ですし、ディフェンスの面で去年は多かった凡ミスが無くなってきた。着実にチーム力は上がっているので、この夏にしっかりと調整し、秋には必ず優勝できるように頑張りたいと思っています。
山田 秋親(以下山田)  開幕カードの京都先端科学大戦が大きなポイントでしたね。
監督と僕がエースとして期待していた4年次生の内藤航世が、立ち上がりを打ち込まれていきなり5点を先制されると、そのまま大差で敗れてしまいました。僕の中で最も信頼しているピッチャーだったので、万全を期して送り出したつもりだったのですが、結果的に開幕戦で投げることの不安や緊張を拭ってやることができなかった。僕にとっても新たな課題ができました
石井 その点に関しては、私にも監督としてかなり責任があったと思います。
彼への期待が大きかった分、余計なプレッシャーを与えてしまったところがありました。でも、開幕戦に抜擢したのは、その経験が彼自身の成長に欠かせないと判断したからです。それを春季リーグが終わった後に本人に伝えたところ、彼なりに思うところがあったようです。秋に内藤が春の悔しさをどうリカバリーしていくのか、是非、注目して欲しいです。

― 同じ京滋リーグの佛教大が全国大学野球選手権で決勝に進出しました。メディアでもその快進撃が連日大きく報じられましたが、ライバルチームの大躍進についてどう思われますか?
石井 正直いうと、京滋リーグの評価を上げてくれて良かったなと思う半面、本当は我々がその立場になりたかった悔しさもあって複雑ですね。
佛教大があそこまで行けた訳ですから、我々にとっても掲げている『大学日本一』という目標は、決して実現不可能な目標ではありません。学生たちにはそのことはもちろん、その目標を達成するために、何が足りないのかを自分たちで真剣に考え、解決していくことの重要性に気づいてほしい。
山田 全国的には、マイナーな京滋リーグのチームが準優勝したので、どこが優勝してもわからない、全国のいろんな大学に日本一をつかむチャンスがあることを本学の学生には知って欲しい。
あとは監督がおっしゃるように、その目標を果たすために何をすべきかを自分たちで考えるきっかけにしてほしいですね。
石井 私たちの目標は、もちろん大学日本一です。しかし、ただ神宮で優勝すればいいと言うわけではありません。
びわこ成蹊スポーツ大学の野球部員として活動する中で、どれだけ人として成長したのか。そのことを学生たちが実感できるような指導を私たちは目指しています。重要なのはサッカー部の望月聡監督が選手たちに見事に浸透させておられる『主体性』と同じで、優勝するために何が足りないのか、あるいは問題を解決する為にどうしたらいいのか、どんな練習を積み重ねたらいいのか。そうしたことを自分達で考えて実践し、自分達の意思や努力で常に高い目標を目指し続けることなんです。

― 一方的に指導を受けるのではなく、選手たちが自主性をもって野球と向き合うことが大切だということですね。
石井 そうです。たとえば、プロ野球選手としても活躍された山田コーチのノウハウを受け身になって教えてもらうのではなく、選手の方から問題があればこういう時はどうしたらいいですか、こう思っているんですがどうでしょうなどと、自分たちが主導的にコーチのノウハウをいかに引きだしていけるか。そんな感覚を持って野球をする選手をどれだけ多く育成できるかが、我々のチームの課題でもあります。
山田 僕自身も一方的に伝えられることは限られていると思うので、選手から求められて、僕の何かをきっかけに伸びてくれることが一番嬉しいですね。まあ本人が上手くなろうと思わないと求める事もないと思いますし、勝ちたい気持ちや上手くなりたいと言う意識は常に持ってもらいたいし、持たせたいなと思います。

― 内藤選手や香水選手の名前があがりましたが、他にも注目選手はいますか?
石井 たくさんいますよ。今、4年次生で残ってくれている主将の松山皓多をはじめ、野手では杉原竜希や田中慎悟はもちろん注目すべき選手です。ピッチャー陣も4年次生たちは野球に対する意識がとても高いので、彼らを筆頭にいい結果を残してほしいですね。
山田 やはり主将にはリーダーシップ、発言力、結果、色々な事を求めたいのですが、今後社会人としてきっちりしている様な人間になってほしいと思っていますし、現に松山もそういうところにもう一歩まできているので、チーム内の発言力はずば抜けてあると思いますね。
あと、投手陣でいえば、4年次生の内藤の奮起はもちろんなのですが、2年次生の香水や3年次生の大原昌樹や山田篤史にも期待したいですね。香水はリーグ選抜にも選ばれて大事な局面で投げていますし、大原や山田はけがを克服して一回り成長して欲しい。なにかをきっかけに彼らが一皮むけてくれれば、うちのチームはぐっと勝利に近づくと思います。

― 山田コーチ自身も、一皮むけるきっかけになったことはあるのですか?
山田 ありますね。大学2年次生のとき、京都のトーナメント大会で社会人チームと対戦することになったのですが、その試合で上級生の投手でなく、僕が抜擢されました。試合は6対7で敗れたのですが、金属バットを使う社会人を相手に最後まで投げ切れたことが凄い自信になりました。その前と後では、マウンドから見える風景が変わったような気がします。
何より僕は学生の頃は日本代表のユニホームを着たいと思っていましたし、オリンピックに出るのが一番の目標でした。そのモチベーションがあったからこそ、あの試合でひと皮向けることができたのだと思います。学生達にも成長するためのモチベーションを持たせたいですし、まず勝つ事が自信にもなるので、とにかく試合に勝たせてあげたいです。

― 石井監督も、野球を通して成長を実感する出来事があったのですか?
石井 私自身が1番成長したと思うのは社会人野球時代ですね。色んな面で1番上手くいかなかったのも、一番結果がでなかったのも社会人ですが、4年目に初めて都市対抗に出場することができたことや、その後マネージャーとしてチームを支えることを経験して、一番成長したというか、人間としての礎を形成してもらったと思っています。
だから、個人的な思いとしては、学生たちに卒業後も社会人として野球を続けて欲しいんですね。社会人野球ってもちろん会社のために勝つことを目指しますが、純粋に自分のためにやる野球なんです。大学生までは親にお金を払って貰ってやっていますが、社会人になったら初めて仕事として給料をもらって野球をし、目指した所に行けるように努力するわけです。そうした舞台で野球をすることで、人間としても成長して欲しいという気持ちも強いですね。

― 野球を通じて人間として成長する事が、今後の人生につながるという事ですか?
石井 そうです、特にそういった意味では選手だけでなく学生コーチやマネージャーも、野球部での仕事や大学生活の中で社会への準備をしていると思います。
例えばマネージャーは、高校のマネージャーと違い、チームのマネジメント、まさにお金の扱いからマッチメイク、あるいはチームが強くなるためにもいろんな仕組みを作ったりしなければいけません。チームの運営として非常に大事な所を担ってもらってます。社会や他のチームとの窓口はマネージャーです。野球部の顔であり、大きな責任を背負っているので社会に出た時に必要な事を一番学んでいる存在であると思いますね。

モチベーションや目標を持つ事で一皮むけるきっかけになる ― お話を聞いていると、部員たちの卒業後の人生についていろんな思いを持っていらっしゃることがわかります。最後に学生たちにエールを送っていただけますか。
石井 野球部で頑張ったことを社会に出てからの糧にするには、自分自身でしっかりとした目標やビジョンを持って野球に取り組むことが前提です。目標を達成するためには、今の状況を打破する為に戦略を立て実行しなければならない。そのためには知識を吸収し考える事、それが成長につながります。社会に出た時に野球から離れたとしても、そうして身につけた問題解決のテクニックは必ず仕事や社会生活に通用するはずです。
本学の良い所は、トレーニングやコーチング論、心理学や栄養学にいたるまでスポーツに関する様々な知識を身に付けられることです。こんなに恵まれた環境はそう無いわけですから、真剣に取り組んで有効に活用して欲しい。
10年後、20年後でもいい。あの4年間があったから、今、幸せです、良い仕事をしています、良い家庭を作れてます……。そういった報告を部員たちから聞ければうれしいなと思います。
山田 やっぱり野球を続けて欲しいというのが1番の希望です。
でも、残念ながらプロ野球も社会人野球も狭き門なので、なかなか続ける事が出来ない部員が大多数なのも現実です。
そういう学生たちが社会に出る時、丸腰で出るのではなく、野球で教わった礼儀や野球技術もそうですけれども、この4年間で得たものを武器としてしっかり持って、社会へ出た際に繋げられ、即戦力として活躍できるような人材になってほしいですね。
そして元気で豊かな、納得のいく人生を歩んで欲しいと思っています。