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体験ルポ 硬式野球部編

  • 荻野選手

    セカンドベースに向かってヘッドスライディングする荻野選手

  • 山内選手

    バッターボックスに立つ山内選手

悲願の初優勝ならず 近くて遠かった王者の背中
本学の硬式野球部は昨季の京滋大学野球秋季リーグ戦で、創部以来、最もリーグ優勝に近づいた。コロナ渦でチーム練習が制限されるなか、最終節の佛教大戦で2勝すれば、プレーオフ(優勝決定戦)への出場が決まるところまで食い下がったのだ。だが、京滋リーグ最多55度の優勝を誇る王者・佛教大の牙城を崩すのは容易ではなかった。第1戦は2-1で接戦を制したものの、続く第2戦は0-1と惜敗、プレーオフ進出への道は断たれた。天王山となったこの2戦を通じ、野球部員たちは何を感じ、何をさらなる飛躍の糧にしていくのだろう。3番サードで試合に出場した山内詩希選手に、体験レポートの形で心情を綴ってもらった。

あの悔しさだけは絶対に忘れてはいけない
「勝負の綾は、どこに潜んでいるのかわからない―。
自分たちが戦ったあの2連戦を振り返る時、胸をよぎるのはそんな感情だ。
コロナ禍のなか、関係者の人たちの尽力で開催することができた2020年度の京滋大学野球秋季リーグ戦。僕たちびわスポ大硬式野球部は、最終節の佛教大学との2戦で連勝することができれば、プレーオフ(優勝決定戦)に出ることができる位置にいた。
入部してから、最終節を迎えて優勝の可能性があるのは今回が初めてだった。
甲子園出場をめざしていた長崎の高校時代、最後の夏は予選の2回戦で敗退した。びわスポ大に進学してからは、京滋リーグで優勝して全国大会に出場することが新たな目標になった。2年次生の春から9番セカンドで試合に出させてもらうチャンスをいただいたが、なかなかいい結果を残すことができず、先輩たちに申し訳ないという思いが常にあった。だからこそ、この最終節の2試合はサードの守備位置についている時も、打席に立った時も、ベンチで声を出している時も、これまで体験したことのないような高揚感と緊張感に包まれていた。
リーグ戦が開幕した当初は打撃が好調で、打率も一時は4割5分でリーグの首位打者も狙える位置にいた。好調さを維持したまま最終節を迎えたかったが、前節の京都先端大学戦では相手バッテリーに研究されたのか配球を工夫され、ヒットを打てなかった。前節で3番としての役割を果たせていなかったからこそ、最も重要な最終節でチームに貢献したい、プレーオフに駒を進めて優勝したい気持ちでいっぱいだった。
過去に54度もリーグを制し、昨年度は全国大学野球選手権大会準優勝という結果を残している王者との1戦目は、1つのミスが命取りになるような緊迫した展開になった。
お互いが2死からランナーを出しても点につなげられないなか、森川未来選手のホームランなどでびわスポ大が2-0とリードしたまま迎えた最終回、1点を返され、さらにリリーフの制球が乱れ、1アウト満塁、3ボール1ストライクと絶体絶命のピンチに、守っている選手、ベンチにいる選手全員が最悪の結末を脳裏の片隅に描いていたに違いない。
そして、このボールカウントで、佛教大学はスクイズをしかけてきた。
ボール球でバッターは咄嗟にバットをひいたが、判定はスイング、スタートしていた3塁ランナーにタッチして2アウト。後続のバッターも外野フライに打ち取り、2-1で第1戦目に勝利し、プレーオフ進出の可能性を残して最終戦に挑むことになった。
しかし、歓喜の輪に加わりながら、頭の中で同じシーンが何度も何度もリプレイされていた。
1点差の1アウト満塁、3ボール1ストライクの場面で佛教大学がスクイズを選択し、確実に同点を狙ってきたシーンである。胸にわきあがってきたのは、球審はバッターがバットをひいたと判断し、ボールの判定で押し出しとなり同点に追いつかれなくて良かった…という安堵の感情ではない。1点を獲ることに執着するその戦術に、佛教大学の強さの根底を見た気がして手に入れたばかりの勝利を手放しでは喜べなかったのだ。最終戦を前に、その感情が自分自身の心の中で不安や焦りにつながったことは否めない。

そして迎えた佛教大学との第2戦も、1点を争う投手戦になった。
1戦目以上の緊張感のなか、ホームランで0-1と先制された展開で迎えた6回裏、1アウト1・2塁のチャンスで打席が回ってきた。自分のバットでなんとか同点に追いついてやるという強い気持ちで打席に立った。
だが、相手ピッチャーのスライダーにバットを合わせた打球はセカンドの真正面へ。ダブルプレーだけは避けたい、と一塁ベースまで全力疾走をした。
もともと右足首を痛めていてこの日も
テーピングで固めていたが、足首をかばううちに太ももにも負担がかかっていたのだろう。ダブルプレーは回避することができたが、一塁ベースを踏んだ瞬間、右足太ももが悲鳴をあげた。
そのまま一塁ランナーとしてプレーを続けたが、次のイニングにサードの守備につくことはできなかった。
今季のリーグ戦でずっと試合に起用してもらいながら、最後までグランドで戦えない悔しさ、最後の最後で怪我をしてしまう情けなさ、そんな思いに加え、緊迫した試合状況の中で試合慣れしてない選手に出場させてしまったことに対しての申し訳なさがこみ上げてきた。
結局、試合は0-1のまま完封負け。京滋リーグ初優勝の目標は達成することができなかった。1点の重みを身にしみて感じる結果となったが、前日の第一戦の最終回に佛教大が見せた1点への執着。その強さの原点を不安や焦りではなく、自分たちのチームが吸収すべき要素として前向きに受け止めることはできなかったか―。
天王山となった佛教大との2戦を振り返る時、あのシーンにこそ2戦を通じての勝負の綾があったのもしれない、とも思う。
初優勝の望みが断たれたあと、チーム全員が悔し涙を流した。ベンチもスタンドで応援してくれた部員も、みんなが本気で悔しがった。これまでも悔しい思いはしてきたが、それは僕が初めて見る光景だった。
優勝争いを最後まで経験できたことは、新チームにとって大きなプラスになるだろうし、あの悔しさだけは絶対に忘れてはいけない。
コロナ禍で思うように部活動ができないなか、新チームがスタートした。僕個人としては、大学野球のラストイヤーだ。レベルの高いピッチャー、バッテリーと対戦したときも、しっかりと結果が出せる打者になるための努力を続けたい。
そして貴重な経験ができたことを先輩たちに感謝しながら、これまで以上に練習を積んで1点を獲ることに貪欲なチームになり、次こそ京滋リーグ初優勝、そして全国大会出場の夢を現実にしたい。
(文責・山内詩希)