“びわこプライド”を形にしていくために
学長に就任したのが2017年の10月ですから、1年半近く琵琶湖と比良山に囲まれたこの美しいキャンパスでみなさんと同じ時間を共有させていただいたことになります。大阪教育大学で37年間保健体育教員として奉職し、監督として国立大のサッカー部を関西1部リーグに昇格、定着させたキャリアにそれなりの自負を持っていた私ですが、本学でみなさんのクラブ活動にかける情熱にふれ、スポーツが内包する多様な魅力に改めて気づかされる日々が続いています。
中央棟の3階にある学長室からは、サッカーグラウンドを眼下に見下ろせます。着任直後に驚いたのは、早朝から夕刻まで部員たちの姿がグラウンドから消える時間がほとんどないことです。300人ほどの部員がレベルに合わせて7つのチームに分かれて練習しているのである意味当たり前の光景かもしれませんが、リーグ戦を観戦し、少しずつ部員たちとふれあい、彼らの実情を知るにつれ、私は別の面でさらに大きな驚きを隠しきれませんでした。
チームのために、自分は何をすべきなのか——。
これだけ大人数の部員が分かれて練習をしているにも関わらず、部員たち1人ひとりがこの命題としっかりと向き合い、その答えを自主的に導き出して実践していたからです。こうしたチームポリシーが浸透しているからこそ、昨年度は関西リーグを制覇できたのでしょうし、その意識を仲間と共有しながらサッカーに打ち込む日々は、部員たちにとって人生の大きな糧になるに違いありません。芝生の上でボールを蹴る彼らの姿を窓ガラス越しに見るたび、そんなことを思うのです。
そして今年度の本学における特筆すべきトピックスといえば、学生監督率いる男子バレーボール部が2部リーグで優勝し、この春からチーム創設以来初の1部昇格を果たしたことでしょう。バレーボールというチームスポーツで、純粋な学生チームがリーグの頂点に立つことは、これまでの常識では考えられない快挙です。メンバーたちが優勝報告にきてくれましたが、学長として誇らしかったのは、彼らが競技者としての能力はもちろん、社会に飛び出していく人材として素晴らしい人間性を培っていたことです。
彼らが積み重ねてきた日々の努力に敬意を払いますし、彼らが自主的に競技に取り組んだその過程こそが、スポーツの研鑽が人間的な成長につながることをこれまでにない形で証明してくれたと思っています。
もちろん、私が心を動かされているのは、サッカー部や男子バレーボール部の活躍だけではありません。
紙面を大きく刷新した今回のBSSCジャーナルには、本学のクラブをひっぱっていくキャプテンたちが一堂に揃った写真が大きく掲載されています。それぞれの競技に特性があり、キャプテンたちにも様々な個性があることを想像させてくれるこうした写真を見ると、私の頭の中に一つの構想が浮かんできます。
ここ最近、日本のスポーツ界では指導者によるパワハラ問題などの不祥事がクローズアップされました。それに伴い、大学スポーツの活性化にむけてアメリカのNCAA(National Collegiate Athletic Association)の日本版構想が話題になっています。本学もそのための準備を少しずつ進めていますが、私にはその前にやりたいことがあります。
それは本学内にNCAA的な組織を作り、各クラブ間の横のつながりを強化することです。昨年の6月だったと記憶していますが、太陽が丘陸上競技場で行われたサッカー部のリーグ戦に足を運んだ時、近くの会場で試合を終えた野球部員たちが応援に駆けつけ、観客席を埋めた光景を目にしました。野球部員たちがサッカー部員たちと同じ歌詞カードを手にとって応援歌を歌っている姿は、クラブ間の交流の素晴らしさを象徴するようなシーンでした。
こうした横のつながりをもっと組織的に、かつ濃密にしていきたいと考えています。
そうすることで、各クラブの学生たちの意識の中に通底している本学の気風がより明確な形になっていくはずです。〝びわこプライド〟という言葉を漠然とした概念ではなく、一人ひとりの胸に残る財産として在学生はもちろん、卒業生のみなさんとも共有したいのです。
そうして新たなつながりを継続させていくことこそが、この比良の地から新しいスポーツ文化を創造していくことにつながるのではないでしょうか。
各クラブの研鑽と交流の先に、私はそんな未来図を描いています。